原因不明の症状に悩まされ、通学がドクターストップ
私は小学4年の頃から、原因不明の腹痛や貧血、急激な体重の増減、体内に熱がこもりやすく突然高熱が出る、といったさまざまな症状に襲われていました。数カ月ごとに体を動かせない日も訪れ、病院に行っても、症状が複合的に現れているため「この病気」と断定されず、そのため薬も服用できず、常に体調と相談しながら通学していました。
中学生になってからは体調がさらに悪化し、中学1年の5月頃には、耐え難い頭痛により1時間で10回以上も嘔吐を繰り返し、痛みによって血圧が170まで上昇する事態になりました。大学病院で診察を受けたところ9月に先天性の脳過敏性症候群と診断され、最重度のため中学への通学もドクターストップ。視線を動かすだけで頭が痛くなるため、医師からは「日差しを浴びてはダメ、顔も視線もなるべく動かさず正面だけを見るように」と言われ、毎日家で過ごすことになりました。
学校にほとんど通えない状況に変化が訪れたのは、中学3年の8月頃でした。新しい頭痛薬が誕生し、新薬の皮下注射によって少しずつ体調が安定するようになったのです。そして、体調が良い時は学習塾に通い、学校のテストや模試を受けられるようになりました。
病気のせいでみんなと同じように学校には通えないけれど、そのことを言い訳にはしたくない。そう思い、学校に通えない期間も自分で勉強をしていたため、全国模試では1位を取り続け、中学3年生のときには、偏差値が80に到達しました。
しかし、偏差値が80あっても全日制高校には進学できませんでした。体育の授業を受けられないので、進級するために必要な単位を修得できないからです。
進路をどうしようか迷っていると、N高等学校(以下、N高)のテレビCMを見た祖母から「N高が良いんじゃない。大学や大学院に行くのなら高校は通信制高校でも良いでしょう」と言われ、母親と個別相談会に参加。そこで全国模試の結果を伝えると、授業料を払わなくていい特別奨学生として迎えると言ってくれ、さらにN高グループの課外活動にも興味が湧いたので、入学を決めました。

さまざまな活動に精力的に参加し、高2で起業
N高グループの中では本校が家から近いS高等学校(以下、S高)を選択。勉強を頑張りたい人、課外活動をしたい人、やりたいことが見つかっていない人など、キャンパスには個性的な人が多く、自分から積極的に声をかけて友達の輪を広げていきました。
高校生活で印象に残っているのは、やはりプロジェクト型学習や課外活動です。企業とコラボして課題解決などに挑む『プロジェクトN』では、「江戸時代に売れるファストフードを“生徒たちに考えさせる”にはどのような授業をすれば良いか」というテーマで学習計画書を作成。優秀作品に選ばれて実際にN中生に授業を行い、優秀賞を受賞しました。
また、N高グループ全体の文化祭である『磁石祭』では2023年に実行委員を務め、配信班のリーダーを担当。自分たちで配信内容を企画して番組の骨子をつくり、企画開発やモノづくりの楽しさを味わいました。
そして、中高生が主役になって新しい教育を作る学校内のプロジェクトでは、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを指す「ウェルビーイング(well-being)」という考え方を教育分野に適用し、ワークショップを開催しました。ウェルビーイングの向上を目指すべきだと考えたのは、中学の時に「学校に行っていないのにテストは1位」という状況から先生とあまり良い関係を築けず、もっと生徒を尊重した教育を実践してほしいと思っていたからです。
最終日には発表会があり、現状分析とウェルビーイングの向上を目指した教育についてプレゼンしました。すると来賓されていた経産省や教育業界の方から「これは事業化した方が良い」と高評価をいただき、「そこまで言ってくれるならやってみよう!」と、高校2年の12月に教育カリキュラムや企業研修を作成する一般社団法人を設立しました。
S高に入学する前はまさか高校2年で起業するなんて思いもしませんでしたが、これも高校生活の中でさまざまな企画や発表に取り組めたおかげです。起業後は若手起業家のコミュニティにも入って人脈を広げ、1年間で教育カリキュラムや企業研修の作成を約20件受注しました。

中国の深圳大学に進学。将来は欧米の大学院で脳の研究に携わりたい
私は長年にわたり脳過敏性症候群に悩まされてきました。だからと言うわけではありませんが、子どもの頃から、将来は理系研究が進んでいる欧米の大学院で学び、脳科学や脳チップの研究をしたいと思ってきました。しかし、起業に伴い、大学教授や大学院生とも交流する中で「日本の大学から海外の大学院に行くのはハードルが高い」と教えてもらい、それなら海外の大学に進学し、それから海外の大学院に進もうと切り替えました。
ただ、学びたいと考えていたイギリスやアメリカの大学は学費が高く、まだ体調に不安も残る中であまりに遠方だと家族も余計に心配してしまう。そこで経営とICTの分野で最先端を走る中国・深圳大学に進学しました。
諸々の準備が整ったら、中国で暮らしながら通学する予定です。世界中から学生が集まっているので、授業中にタイ語やベトナム語が聞こえることもありますが、持ち前のコミュニケーション力を発揮して、大学でも友達をたくさん作りたいと思っています。
新薬が効いているとはいえ、痛みが緩和されるだけで完全になくなるわけではありません。注射の翌日は今も体を動かすことはできません。でも、自分がハンデを背負っているとは思っていませんし、S高に入ったことも後悔していません。むしろさまざまな痛みを経験してきたからこそ人の痛みが分かり、S高で教育の改善に目を向けることで起業できました。 中学生の時には医師から物理的に前を向くよう求められましたが、精神的にも前を向き続け、今後も自分の馬力を信じて、私らしく生きていきたいです。

取材日:2025年4月
本記事内で話されていることは、個人の体験や感じ方によるものです。現在の学校のカリキュラムや学習の進め方とは異なる場合があります。
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